「『鉛色の時代』への誘い」(カープ 2019年シーズン展望)
平成最後の開幕を球団史上初めてとなる3年連続のディフェンディングチャンピオンとして迎える事となった広島カープ。
オープン戦は23年ぶりの1位という結果に終わった事もあり、4連覇への期待は高まっているようです。
また、それに伴いチケットの争奪戦も過去最悪とも言える状況になり、「広島の恥」が全国に晒されたのも記憶に新しい事ですが…。
しかし、本当にこのチームは多くの下馬評にある通りに円熟期を迎えた万全のチームなのかどうかを開幕前に考えてみたいと思います。
2019年 広島東洋カープ開幕ロースター
【投手】
九里亜連
大瀬良大地
床田寛樹
島内颯太郎
レグナルト
菊池保則
ヘルウェグ
【捕手】
船越涼太
坂倉将吾
【内野手】
曽根海成
上本崇司
小園海斗
西川龍馬
【外野手】
「進化」ではなく「立て直し」な投手陣
まずは投手。
カープの投手陣といえば、昨シーズンは3連覇したとは思えないぐらいに近年でも低調な数字を残し、全体的に見れば打線の足を引っ張り続けた印象が強いセクションです。
特に一部の投手を除くとパフォーマンスが総じて低かった先発陣に至っては、前年度優勝チームであるにも関わらず今季のテーマは「進化」というより「立て直し」と呼んだ方が良いくらいの惨状でした。
開幕ロースターを眺めると先発陣はプロ入り初の開幕投手の座を掴んだ大瀬良大地を筆頭に、オープン戦で試合を作り続ける事に成功し抜擢された床田寛樹、昨年終盤の活躍が記憶に新しい九里亜連が「表のローテ」となるようです。
そうなると、2カード目はクリス・ジョンソンと野村祐輔が入り、6番手以降は2軍で好投を見せたアドゥワ誠かケーシー・ローレンス辺りとなるかと思われますが…素直に言わせて貰えればこの面子では期待よりも不安の方が大きいです。
昨年、最多勝と最高勝率に輝いた大瀬良はオープン戦では大崩れはなかったものの、開幕投手としては説得力も感じられない平凡な投球でしたし、クリス・ジョンソンは最後のオープン戦での登板を回避し2カード目に回った事からコンデションに不安を残します。
また、オープン戦では野村祐輔や九里亜連も低調なパフォーマンスに終始し、若手で期待される床田寛樹ですがこれまたオープン戦の投球内容や、昨年の高橋昴也の惨状を見ても過度な期待は禁物でしょう。
要するにかつての前田健太や、黒田博樹のようなローテーションの核となり得るエースが存在しないのです。
勿論、前田健大や黒田博樹が不在でも連覇を果たした事実はあるという反論もあるでしょうが、それはあくまで強烈極まりない打線があっての話でしょう。
後述しますが、その打線の威力についても不透明な部分が昨年以上に大きい現状ではその考えが今年も通用すると考えるのは甘い見込みというものです。
シーズン前から悲惨極まりない先発に比べるとリリーフは幾らかマシには見えます。
中崎翔太、ヘロニモ・フランスア、一岡竜司と昨年のブルペンの中心を担った投手はオープン戦でも比較的安定していましたし、外国人枠の関係で起用は限定されるでしょうがカイル・レグナルトも素晴らしい投球を見せてくれました。
しかし、上記のように先発陣が頼りないとビハンドの場面を維持して反撃を待つための投手がたくさん必要となる事が予想されます。
昨年は、これをアドゥワや九里が担いましたが、両人とも先発に回った今季はこのセクションに入れるべきこれといった投手が見当たりません。
開幕ロースターを見る限り、それを担う役割を持ったのがルーキーの島内颯太郎でしょうがこれまた床田以上に未知数です。
岡田明丈、今村猛、薮田和樹辺りが本来の輝きを取り戻せば良くはなるのでしょうが…現状の彼らの低迷ぶりを見ると、それはたんなる取らぬ狸の何とやらに過ぎません。
「曲がり角」が否めない野手陣
ここ3年球界屈指の威力を誇った打線に関しても、今季は曲がり角とも言える状況に陥っています。
上記のように先発陣始め投手陣があまりに頼りない状況であったにも関わらず安定してこのチームが勝てた最大の理由は守備ではセンターラインを、打撃では1番から3番とチームの根幹となるセクションを支えてくれていた「タナキクマル」の存在があったからに他なりません。
その中にいて2年連続シーズンMVPに輝いた丸佳浩がFA移籍して岩盤ともいえた強固なセンターラインの中核がいなくなった以上は、いくら他にも魅力的な野手がいるとしても、さすがにダメージは深刻と考えるのは自然というものです。
従って、今季の野手陣の注目が、攻守で中心だった丸の抜けた穴を誰が埋めるかという事事に集まるのは当然の事でした。
しかしそのセンター及び3番争いに関してはオープン戦通じて西川龍馬と、坂倉将吾を中心に試行錯誤がなされましたがいずれも低レベルで丸の足元にも及ばないのが現状です。
丸の人的補償で読売から入団した長野久義にしても異常ともいえる人気と期待の割にはオープン戦通じて低調でこれまた過度な期待は禁物でしょう。
というより長野に関しては故障の影響以上に、ドラフト指名を2度も拒否するという制度の根幹を揺るがすような暴挙を強行してまで入団した「憧れの球団」を追われた事によるモチベーションの低下が深刻なように私には見えます。
本人は至って前向きに振る舞ってカープファンを喜ばせる事に必死ですが、元来スロースターター気味の選手とはいえオープン戦ではあまりに覇気の感じられない打席が多く私個人としましては懐疑的にならざるを得ません。
そういう訳ですから結局、センターに関しては「同じ打てないなら守れるヤツのほうがいい」という理由により消去法で野間峻祥がメインを務めるかと思われます。
また、野手に関してはセンター以上にサードの穴がより深刻でしょう。
あまりの守備の酷さから西川が外野に「追放」されてしまった為、事実上このポジションは安部友裕と曽根海成の2択です。
安部に関しては昨シーズンが不振でしたし、曽根は昨年移籍したばかりで実績が少ない選手。
何より深刻なのがこのポジションにこれといった若手が存在しない事です。
開幕ロースターに小窪哲也や堂林翔太の如き伸びしろが残っていない面子が入ってしまっている事からの惨状は容易に分かるというものでしょう。
恐らく、攻守で最後まで足を引っ張る野手のポジションは今季もここになるかと思われます。
「鉛色の時代」への誘いを断ち切れるか?
駆け足でしたが、全体的に見て「立て直しの兆しが見えない投手陣」「主軸が抜けて曲がり角に陥りそうな野手陣」と先細りの傾向が否めず、今季は非常に厳しい戦いになる事を予想せざるを得なくなりました。
結局のところ、3連覇を果たし絶大な人気も獲得したにも関わらずFAの人的補償でどう考えてもコストパフォーマンスの悪い長野を敢えて獲得した以外にこれといった野心的な補強がなかった事に全ては起因しているように思えます。
かつてカープのオーナーである松田元は「今は黄金時代でもいずれ『鉛色の時代』が来るかもしれない」というこの人らしい何とも後ろ向きな表現で、自身の所有球団の人気について言及しましたが…手に入れたまばゆい輝きを手入れもせずに放置して鉛色に変えようとしているのは一体誰なのかと逆に聞きたくもなります。
勿論、ぶっちぎりの最下位が約束されていたにも関わらず若い力の爆発で25年ぶりの栄冠を勝ち取った過去を見れば「今年も補強が足りなくても何とかなる」と考えるのも一理はあるでしょう。
現に苫米地鉄人以来、高卒ルーキーそしては19年ぶりに開幕ロースターに輝いた小園海斗のような楽しみな選手もいます。
しかし、いつまでも過去の成功経験にしがみついた者が簡単に凋落するのも優勝劣敗が常のプロスポーツの世界では枚挙の暇がない事実でもあります。
果たしてこのチームは「鉛色の時代への誘い」を上手く断ち切って良いサイクルを継続する事ができるか…大変不安ではあります。