感情を揺さぶられ情熱を注ぎこむ理由(黒田博樹 野球殿堂入りによせて)
2024年度の野球殿堂入りに谷繫元信氏、谷村友一氏と共に選出された黒田博樹氏の表彰式が本日、エスコンフィールドHOKKAIDOでのオールスター戦第1戦を前に挙行されました。
結果的に現役最後の登板となった2016年日本シリーズ第3戦と同じ北海道での表彰式となったのは奇縁とも呼べるもの。
この光景をテレビで眺めながら、黒田と彼が私たちと共に愛した広島カープに関して個人的に印象に残るある風景を改めて思い出してしまいます。
時は2007年の4月。
シーズン最後となる本拠地戦の外野席で特大フラッグが翻ると共にまるで中学生の卒業式のようなポエムの斉唱まで行われるという盛大なファンの働きかけもあり、ほぼ確実視されていた国内FA権の行使を取りやめて残留を果たしたのは前年の事でした。
この日は黒田にとってはシーズン最初の本拠地での登板。
しかし、昨年シーズン最終戦での熱狂はどこへやらで彼を待っていたのは情熱的な応援ではなく閑散としたいつも通りの平日ナイターの広島市民球場でした。
試合の方も既に設備の陳腐化が限界を超えていた狭隘な広島市民球場でしか出ないであろう本塁打で先制を許した黒田は打線の援護が十分でない状況で9回を3失点で投げ抜いた末に敗戦。
そんな寒々とした試合で黙々と投げ続ける黒田の姿をライトスタンドから観戦していた私には様々な感情が湧きあがったのを今でも覚えています。
ファンやフロントに対する失望に怒り、そして球団の存続への強い危機感と、何とかして曽祖父の代から応援しているカープを守らなければならない使命感。
時は近鉄バファローズが吸収合併されてから僅か3年あまりでまだまだ球界再編問題はしつこく燻り続けていました。
ついでに個人的な事を言えば、この頃は諸事情により会社を辞めて社会に出てから最初の挫折を感じた時期でもありました。
まさにどん底のチーム人気と我が人生。
そんな中で私が選んだのは「とにかく体力と時間と金が許す限りは出来るだけ球場でカープを応援し続けよう」という思い。
以降の人生で私がある種の強迫観念とも使命感とも呼べる気持ちで意地になって球場に足を運び続けている原風景の一つがまさにこの試合でした。
成績はともかく愛するチームがある限り、とにかく球場には行かなければならない。
そう思わせる何かがあったとすれば間違いなくあの時の閑古鳥の球場で敗れた黒田が見せた姿だったのだと今にすれば思えます。
そしてあの時の黒田に私たちが何か報いなければならないとすれば今、そしてその先の未来を生きる選手や若いファン達にあの時の市民球場のような景色を金輪際見せないようにする事でしょう。
これは何も球団の営業努力というだけの話ではありません。
私たちファン一人一人が広島カープそのものであるという気持ちを持ち続ける事も大きな要素となり得ます。
少なくともあの狭くて暗くて老朽化した球場で孤独に投げ続けた黒田の姿はそれを今でも教えてくれているのです。