オープン戦も終盤まできてしまい、もはやこの時期に新たな補強が行われる事は余程の事がない限りはあり得ないかと思います。
では、3年連続ディフェンディングチャンピオンとして2019年シーズンを迎えるカープの補強はどうだったか?
少し振り返ってみたいと思います。
・道を誤れば…
野球に限った話ではありませんが、一つの成功したチームがいつまでもその戦力を維持し続けるというのは不可能であるというのは分かりきった事実です。
一方で、どの競技においても半ば永続的にタイトル争いを続けるもしくは義務付けられた名門と言われるチームもまた存在してもいます。
そして、そういうチームというのは年が追う度に新たな戦力が加わりチームをブラッシュアップしているからというのもまた、事実でしょう。
球団史上初のリーグ3連覇という一昔前なら冗談にすらならなかった偉業を達成したカープですが、今季は2年連続MVPに輝いた丸佳浩が移籍したのを始め、新井貴浩、ブラッド・エルドレッド、ジェイ・ジャクソンとこれまでの「栄光の3年間」を演出した選手たちの退団を受け、大きな分岐点に迫られています。
さて、この分岐点…。
選択を誤ってしまった場合の結果がどうなるかは2013年のAクラス復帰までの長い長い道のりを思い出せば容易に想像出来るかと思います。
即ち、以降も安定した戦力を維持しリーグ屈指の強豪であり続けるか?
閑古鳥の鳴く寂れた球場で惨めな姿を晒す地方のクズチームに戻るか?
決して選択肢を誤ってはいけない状況でこのチームはまずは補強でどのように振る舞ったかを考えてみたいと思います。
・丸の「亡命」よりも重大なもの
昨季から今季にかけてのシーズンオフ全体で見れば大きな話題になったのが、上記でも言いました丸の読売への「亡命事件」なのは私も異論はありません。
球団史上…というより球界屈指の選球眼と出塁率を誇り、今季はそれに加えてこれまでの「20本の壁」をあっさり破って、長打力まで手にした「セイバーメトリクスお化け」とも呼べる驚異的な選手でしたからそれは無理からぬ事。
現に、多くのマスコミが注目したのが「丸離脱の穴を新戦力たちが如何に埋めるか?」という点であったように見えます。
しかし、それがこのチームの今季の補強に関しての注目点というのは少し違うでしょう。
以前にも書きましたが、このチームは3連覇という偉業を達成したものの、投手陣の成績は年々下降の一途を辿り、昨季に至ってはここ10年でも屈指の低水準でした。
大瀬良大地の奮闘はあったものの、ローテーションは4番手以降が安定せず、リリーフ陣も崩壊寸前のところをヘロニモ・フランスアのまるで「21世紀のプロ野球とは思えないぐらいの大活躍」に辛うじて救われた事を含めて全てのセクションで早急な改善が必要でしょう。
また、昨年は一時期丸が故障で抜けた状況でも大きく攻撃力が低下する事はなかった事からもわかるとおり、カープには丸に次いで球界屈指の「OPSマシーン」と化した鈴木誠也と菊池涼介や田中広輔を始め、ある程度のレベルを維持出来るベースは野手陣にはあります。
しかし、投手陣はその肝心のベースと呼べるほどのものが野手に比べれば遥かに脆弱なのです。
それを放置して丸の穴埋めばかりを考えるようではあまりに近視眼的な考えと言わざるをえません。
・放置された問題点(投手)
2018-2019広島東洋カープ(投手)
→IN
島内颯太郎
田中法彦
菊池保則
レグナルト△
ローレンス
OUT→
辻空
オスカル△
佐藤祥万△
ジャクソン
※△は左投手
その早急な改善が必要とされる投手陣ですが、加入選手を眺めると正直、愕然とします。
というのもこれといった補強がないのです。
日本人投手の加入は4人の放出に対して加入は3人でうち一人は高卒下位指名ですから実質的には2人。
うち上位指名とはいえ、島内颯太郎は即戦力とは言い難いですし、かつてのエース候補である福井優也と引き換えに楽天から移籍してきた菊池保則にしても実績は皆無に近い投手。
そうなると、カイル・レグナルト、ケーシー・ローレンスとタイプの異なる助っ人外国人に期待せざるを得ませんが、やはり登録枠の問題が頭をもたげます。
確かにこのチームには薮田和樹のように昨季は不振だったもののかつて大きな実績を挙げた投手や九里亜連のようにようやく芽が出てきそうな投手はいますが、これをもって「事足れり」と言える根拠にはなりえないでしょう。
そもそもそういう無意味な皮算用を繰り返した挙げ句、もたらされたのが昨年の投手陣の成績の大きな低迷だった訳ですから、それをまた繰り返す事は正直、理解に苦しみます。
チームの3連覇という偉業に隠れて進行している投手陣の低迷という問題は補強という観点から考えると事実上、放置されたという事です。
近年のカープのドラフトの成果ともいえる中村奨成や、小園海斗と言った選手はスケールも大きく素晴らしい野手ですが、それに隠れてあまりにも投手の補強を疎かにしているきらいがあるのは否めません。
思えば90年代前半のカープも、野手の獲得である程度上手くいきながら投手の獲得の方は黄金期の生き残りの活躍にかまけて疎かになってしまい絶望的な暗黒期への扉を開けてしまった歴史があります。
「歴史は繰り返す」とは言いますが正直、心配しか出てきません。
・攻守で穴が増えた野手陣(野手)
2018-2019広島東洋カープ(野手)
→IN
小園海斗△
林晃汰△
中神拓郎
正随優弥
羽月隆太郎△
OUT→
丸佳浩△
土生翔平△
青木陸
※△は左打者
投手陣に比べれば「ベースはまだある」と言える野手陣ですがそれでも丸佳浩が抜けた大きな穴を始めとするいくつかの綻びはあります。
まず、丸が抜けた3番とセンターというポジション。
有力な後釜候補と言えば丸の人的補償でまさかの加入となった長野久義。
丸ですら獲得していない首位打者のタイトルを獲得するなど実績十分のベテランですが、近年は故障の影響もあり精細を欠いている印象…というより明らかに年俸と成績が合致していないようにすら見えますから、過大な期待を掛けるのは難しいでしょう。
やはりいくら長野が加入したと言っても、丸は攻守いずれにおいても球界を代表する野手だった訳ですからすんなりと後釜が入る事はまずあり得ません。
現実的に考えれば長野に加えて昨年丸の不在時に活躍し飛躍を見せた野間峻祥や、あまりの酷さから内野を「追放」された西川龍馬といった選手を上手く入れ替えてこなしていくしかなさそうです。
また、その丸が抜けた穴に加えて目立つのは相変わらず安定した選手がおらず、西川が失格の烙印を押されて更に穴が広がった感があるサードと、ブラッド・エルドレッドと新井貴浩が抜けてやはり層が薄くなったファーストでしょうか。
特にサードは事実上、安部友裕がコケたらまともな選手がいないという悲惨な状況です。
その酷さはとっくの昔に「サード失格」の烙印を押された筈の堂林翔太の名前が今更、候補に上がっていることから分かるかと思います。
また、ファーストに関しても候補はサビエル・バティスタ、松山竜平、アレハンドロ・メヒアぐらいしか思い浮かばない状況も気になります。
というより外国人枠の関係から事実上、二人のみ。
昨年は安部をファーストに起用するという事もありましたが、先述の通り今季の安部はもはやサードから動かすことは難しい状況です。
これらの事情を考えると、枠の関係があるとはいえやはりもう一人ぐらい外国人野手を雇うべきだったかもしれません。
投手陣もそうですが、野手陣にしても丸の離脱という痛手に隠れて疎かになっているセクションが存在するという事なのです。
・強さを維持するのは難しいが…
上記のように投手陣野手陣と今季のカープの補強を駆け足で見てみましたが、いずれも問題を解決出来るだけの事は補強では叶わなかったと言えそうです。
勿論、2016年のようにほとんどの選手がキャリアハイに近い数字を積み上げて突然変異のような強靭さをチームにもたらす可能性は否定できません。
しかし、そういう出来事ばかりをあてにしても待っているのは2000年代後半のような悲惨極まりない現実である事も確かです。
3連覇という偉業を達成した以上はその強さを維持する事は大変難しい事。
とはいえ、現状での戦力の足し算だけで考えれば維持どころか大きなマイナスになる可能性をはらんで補強を終えてしまったという感があるのは何とも残念な事に思えます。