ここに球団史上でも屈指の数奇な運命を感じさせるエピソードがあります。
33年前に北九州市内の病院で偶然にも同日に生を受けた子供が二人いました。
ある程度の規模の病院でしたら出産日が同じになる事なんて別に珍しい事ではないでしょう。
しかし、この二人のうち30分前に生まれた子供の名前は安部友裕であり、30分後に生まれた子供の名前が野村祐輔となると、そうとも言えなくなるのが不思議なものです。
偶然、同じ日同じ病院で生まれてその後異なる場所で一切交わる事がなかった二人でしたが…。
長じて二人そろって同じプロ野球チームに入団してそのチームのリーグ3連覇に貢献したとなると、まるで冗談のような奇跡としか言いようがありません。
そんな不思議かつ素敵なエピソードを持ち主で、活躍を見せながら先日戦力外通告を受けていた安部友裕が今週現役引退を表明しました。
トライアウトにも挑んで現役続行に意欲を見せていただけでなく、ある程度の実績とユーティリティ性を備える事からNPBの他球団から引く手はあると思っていただけに大変残念です。
同学年であり、リーグ3連覇の立役者であった丸佳浩や菊池涼介、田中広輔らのいわゆる「タナキクマル」コンビに比べると主役となったという試合は限られたものではありました。
しかし、結局最後までレギュラーを見出すことが難しかった三塁手のポジションを始め、チームに綻びが生じる度にそれを埋める活躍を見せてくれたのですから、やはり彼がいなければあの時期にリーグ3連覇という夢のような時間を私たちが過ごせていたかは分からなかったでしょう。
特に印象に残っているのは彼が初めて規定打席に到達し飛躍の年にもなった2017年9月5日の阪神戦で放った逆転サヨナラ2ランでしょうか。
この試合は9回表に中崎翔太が救援に失敗し、敗色濃厚だった状況。
しかも相手はこのシーズンで37セーブを挙げてそれまで1本も本塁打を浴びていなかったラファエル・ドリスだった事も含めてまさに彼のスローガンである「覇気」を体現したような一打で、今思い出しても心奮えるものでした。
規定打席に到達できたのは結果的にこのシーズンだけでしたが…その雄姿は忘れる訳にはいかないでしょう。
「覇気」といえば、その翌年の2018年シーズンであり得ないような酷使をものともしない大車輪の活躍を見せて優勝に大きく貢献したヘロニモ・フランスアの気迫も球団史で忘れてはならないものです。
決して、ブルペンが安定していたとは言い難かった2018シーズンにおいて勝負どころの8月で18試合に登板して防御率が0.51と超人的な活躍は誰もが覚えている事でしょう。
実際、あの時期に神宮球場で彼を見た時、160㎞近いボールをビュンビュン投げまくって空振りを取る彼の姿はまさに救世主でしたし、あれほど試合そっちのけでも見ていてワクワク出来るような投手はいませんでした。
その功績は同じく活躍したサビエル・バティスタと並んで「球団史上最高のドミニカン」と呼んで良いでしょう。
また、2019年シーズン以降はクローザーを務めるなど栗林良吏が入団する2021年まで崩壊の一途を辿ったブルペンの屋台骨を支えてくれた投手は間違いなくこのフランスアと言い切れます。
それだけに登板過多が祟った彼が、この2シーズンは故障に苦しみ、遂に今週戦力外となってしまったのは大変やるせない気持ちになります。
少し活躍を見せれば酷使のうえで潰して安定して長期で活躍できる左腕が皆無という「左腕不毛の地」であるカープという球団の犠牲者がまた一人増えてしまったのですから…。
大変悲しい別れがある一方で今週は2022年シーズンゴールデングラブ賞にカープから森下暢仁と菊池涼介という嬉しい出来事もありました。
正直、森下の受賞は予想外でしたし菊池涼介にしてもかなりの接戦になると予想はしていましたが…これで今季はタイトル獲得者なしというシーズンにはならないようでホッとしますね。
それにしても相変わらず外野部門にグレゴリー・ポランコに投票があったり、投手部門でスコット・マクガフに得票があるなど明らかな悪ふざけで貴重な一票を無駄にしている馬鹿丸出しの品性下劣な記者が未だに存在するのは大変残念です。
特に後者は2位であった今永昇太と1位の森下の差が僅か9票だった事を考えるとこの賞と受賞者の権威を傷つける恥ずべき行為と呼べるでしょう。
元々、統一した基準がない為、議論を呼びやすい賞なのですが…今季失策がリーグ最少だったベイスターズから一人も選出されなかった事も含めて抜本的に投票方式を検討し直すべきだと思えます。
少なくとも上記のような悪ふざけを防ぐためにも記名投票に改める事だけはすぐにでも行って欲しいですね。