新型コロナウイルス感染拡大により世界中のあらゆる競技がこれまで通りの開催が困難になってしまったこの1年。
プロ野球も例外ではなく無観客のオープン戦に始まり、2ヶ月に及んだ開幕の延期に日程の大幅変更とまさに異例尽くしのシーズンとなりました。
鳴り物応援もジェット風船はおろか、歓声すら消えた墓場のように静まり返った球場で選手がマスクをつけて沈黙するファンに囲まれてプレーするというまるで悪い夢のような光景も、もはや「新常識」の名の下に試合を重ねる毎に誰もが見慣れてしまって久しいです。
また、開幕までの空白期間で一旦チームを解散せざるを得なかった事や、開幕以降の前例のない超過密日程などで、選手の故障の続出やそれに伴い水準以上の選手層を確保できる資金力が豊富なチームがプロ野球でもJリーグにおいても上位を独占する結果になったのは予想通り。
とはいえ、個々の球団や選手のウイルス感染はあったものの、最悪の場合シーズン中止という結末もあり得た中で日本シリーズまで何とか終える事が出来たのは各球団の選手やスタッフの努力の賜物に他なりません。
心配された球場来場者のウイルス感染も統計上はさほどの数でもなく来季以降も続くであろう「ウイルスとの戦い」に一筋の希望が見えたのも確かです。
一方、そんな異例・異常なシーズンにおいて我らがカープはシーズン序盤から低迷を続けてシーズン最終盤におっとり刀で大型連勝をしたものの最終的には初のCS出場を決めた2013年以降では初となる5位転落という屈辱的な結果に終わりました。
個人記録で眺めれば昨年のドラフト1位の森下暢仁が新人としては54年ぶりとなる防御率1点台と二桁勝利という圧倒的な成績で新人王に輝いた他、鈴木誠也があの山本浩二ですら果たせなかった球団史上初の5年連続3割25本塁打を、菊池涼介が二塁手としてはプロ野球史上初となる守備率10割達成など見どころはありましたが…肝心のチームは優勝争いにはおろか、例年のレギュレーションに照らし合わせればCS争いにすらかすりもしない惨憺たるシーズン。
昨年こそはAクラスすら最終戦で逃したとはいえ一昨年前まではリーグ3連覇の栄華を誇ったチームの転落劇は、かつて松田元オーナーが口にした「鉛色の時代」が到来を高らかに告げるものと言えるでしょう。
それどころか、このウイルス蔓延による入場者制限もありこれまで右肩上がりだった球団の収益も大幅に悪化し、リーグ3連覇の「我が世の春」から一転して2000年代前半の「球団存続の危機」に逆戻りになった感すらあります。
球団創設70周年という節目でカープは何故、再び長いトンネルの入り口に足を踏み入れてしまったのか?
勿論、ウイルス蔓延による大幅な日程の変更や、開幕から長期ロードを戦わざるを得なかったなどの事情は大きな理由ではあります。
しかし、本当にそれだけが理由でしょうか?
今季の低迷の最大の理由というより「戦犯」と言えるのはここ10年で最悪とも言えた投手陣である事に異論はないと思います。
昨年、二桁勝利を挙げた大瀬良大地は故障、クリス・ジョンソンも開幕7連敗のリーグ記録を更新と両輪が不振を極めた事や、テイラー・スコット、DJ・ジョンソンと新クローザー候補が軒並み期待はずれに終わったのが大きな要因であることもやはり同様です。
実際、数字を見ても防御率(4.06)、WHIP(1.40)、失点(529)は共に最下位だったスワローズに次ぐリーグワースト2位で、リリーフ陣の防御率(4.64)やホールドポイント数(56)に至ってはぶっちぎりで最下位と悲惨そのもの。
また、与四球(429)はこれまた最下位で今季はとにかくストライクゾーンで勝負できる投手がほとんど皆無だった事が分かります。
結局、先発陣は二桁勝利を挙げたのは新人王の森下のみで規定投球回数に到達できたのもやはり森下と九里亜蓮のみ。
クローザーに至ってはまったく固定できず、出てくる投手も尽く打たれるという状況でシーズン中盤から漸くヘロニモ・フランスアで固定する事になりましたが、彼も本来の適性はクローザーではないのは昨年の結果からも明らかな投手で妥協に妥協を重ねて取り繕うのが精一杯だったのが実際のところでしょう。
今季、その他リリーフ陣で現れた新星といえば塹江敦哉、ケムナ誠でしたが、防御率はいずれも4.17に3.88と水準以下のもので塹江に至ってはWHIPが「1.63」と勝ちパターンの投手とは思えない凄まじい数字で、その健闘ぶりは称賛に値します一方、年間単位で投げ抜く力があったとは思えません。
過密日程による故障者の続出や、助っ人外人が軒並み外れた事は勿論ですが、それに加えて3連覇の間で活躍した投手たちに続く投手たちの育成が上手くいっていなかったという現実も突きつけられた形です。
それは二軍も大型連敗を喫するなど一軍以上に悲惨な戦いを繰り広げていたことからも明らかです。
また、これだけ過密日程であるにも関わらず、やたらと先発を引っ張り続ける一方でリリーフでも同じ投手をシチュエーションに関係なく投入し続ける佐々岡真司監督の起用方法もファンの間では大きな批判を呼びました。
特にもはや勝負が決したシーズン終盤になっても、明らかに疲れ切っている塹江を起用し続ける一方で、二軍でセーブ王を獲得した田中法彦をベンチで半月近くも放置し続けた事実などを見ると、故障者の続出や助っ人外人の当たり外れに関係なくこのベンチでは投手陣の崩壊は避けられなかったとすら思えます。
また、投手の失点数をイニング毎に見ると6回(86失点)が圧倒的1位である事も先発投手の代え時の判断の遅さ、もしくは不適切さを印象づけています。
その点、こちらと同じ条件で、かつ突出した投手がさほどでもないにも関わらず持ち駒を駆使してブルペンを安定させチームを優勝に導いた原辰徳監督の手腕とは泥の差と言えるでしょう。
上記、問題しか見当たらない投手陣に比べると野手陣はどうでしょうか?
得点(523)、打率(.262)はリーグ2位で長打率(.402)、OPS(.732)はリーグ3位、出塁率(.331)はリーグ1位と下位に低迷したチームの割には良い数字が並びます。
また、得点圏打率(.265)も優勝した読売に次いで2位と決してチャンスに弱かった訳ではありません。
しかし、その割には鈴木誠也が素晴らしい成績を残したのに比して頼りなく感じたのと同様に打線全体も力強さに欠ける印象を個人的には今季は受けたのも確かです。
これはまったくの個人の印象の話だけかと思ったのですが調べてみますと投手の援護率(4.09)はリーグ4位であり上記の数字の割にはさほどでもありません。
また、得点の分布を見てももっとも得点を挙げているイニングが8回(79得点)に7回(75得点)と終盤が多い一方で相手チームが投手の替え時を考えるであろう6回(38得点)がさほどでもありません。
これを見ると先発をなかなか援護出来ず相手先発にQSを許す一方で終盤になって漸く反撃という図式が見えてきます。
上記の通り、今季は6イニング目での失点が目立ちリリーフ陣も軒並み低レベルでビハンドを維持出来ないケースが多いわけですから、数字のわりに「肝心な時に打てない」という印象が出てしまうのもやむを得ないかもしれません。
もっとも、こちらも助っ人外人はホセ・ピレラが平凡極まりない成績に終わるなど軒並みハズレだったのですから健闘はしたと言って良いでしょう。
しかし、守りの面では失策数(74)はリーグワースト2位を記録した一方で、四球数(386)もリーグ4位と出塁率の割にはさほどでもなく、攻守ともに堅実さや緻密さに欠けていた事は認めざるを得ないのもまた確かです。
以上のように主観と数字を交えて眺めて見ましたが、投手が壊滅した一方で打線も数字の割には印象が薄く攻守は勿論、ベンチワークでも全体的に「野球が雑になった」印象が強いように思えます。
勿論、コロナウイルス蔓延という未曾有の事態で資金力がさほどでも球団としてやむを得ない部分があります。
しかし、それ以前に優勝ペナントを奪還する力があったかと言えるとそれもまた疑問でしょう。
それに加えて佐々岡真司監督以下首脳陣の資質の低さもそれに拍車を掛けた印象です。
それらを考えるとかつての「定位置」である5位に逆戻りを果たしたこの失望しかないシーズンを受けて、来季以降も大変苦しい戦いを強いられるのは容易に想像できます。
大変残念ながら、シーズンの結果と内容という冷厳なる事実のうえではそうとしか言いようがありません。
しかし一方で、最大の賛辞を贈りたい事もあります。
それは各球団と比して移動が多いにも関わらずカープはシーズン中に一人の感染者も出さなかったという事。
他球団で感染者が出ている状況からも分かる通り正直、どれだけ対策を施しても蔓延を防ぎ難いこの恐るべき未知のウイルスの前にあっては、感染者が出てしまうのはやむを得ないと思っていただけにこれは驚異的な事です。
チーム全体としてはシーズンの結果は批判されるに値するものでしかないですが、この事実に関しては選手やスタッフの努力に敬意を表すると共に彼らを誇りにしたいと改めて思います。
データ参考サイト様
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