「それでも打撃が貢献している」
前回書きましたが、今季のカープは投手陣の成績が軒並み悪化するという状況にも関わらず、3連覇という形で快挙の上積みが出来ました。
そうなると、その要因を昨年以上に投手陣を援護した打線に求めるのは自然な考え。
実際、丸佳浩と鈴木誠也を核とする中軸は破壊力抜群でしたし、松山竜平による初の規定打席への到達や、野間峻祥の躍進などもありましたので、投手陣の落ち込みも加味すると、まるで昨年以上に打線の活躍が目立ったようにも思えます。
しかし、数字を眺めると実情はどうだったでしょう。
広島東洋カープ2018年シーズン主な打撃成績
※()は2017年の数字
※○数字はリーグ内順位
打率.262③(.273①)
本塁打175本②(152本①)
得点721①(736①)
出塁率.349①(.345①)
長打率.431①(.424①)
盗塁数95①(112①)
犠打数109①(115①)
得点圏打率.256⑤(.297①)
今季のカープの打撃成績を眺めると、打率と本塁打以外は全体的に見て、昨年同様にリーグトップを維持はしています。
しかし、前年度と比較するとほとんどの数値で前年度を下回ってもいて「投手が不甲斐なかった分、今季は昨年以上に打線が頑張った」とも言い難い部分もあることも分かります。
単純に前年度比較するのは意味がないようにも感じますが、リーグ全体では今季は昨年以上に打高投低の傾向にあった訳ですから数字自体の低下はやはりチーム全体の打撃の破壊力は数字的には陰りが見られたとも思えてきます。
とは言うものの、打率と本塁打数が低下してはいても、それでも得点数は2位のスワローズ(658得点)と70得点以上。
やはり優勝の最大の原動力は打線であるという事に疑いの余地はありません。
「スモールボールのチームではない」
では、何故カープはこれだけ圧倒的な得点力を3年連続で維持する事に成功したのか?
今季の得点力の維持の成功を考えるうえで注目すべきなのはやはりというべきか昨年同様に、出塁率と長打率でしょう。
減少した他の数字と反比例するかのように昨年に比べて数値が良くなっている出塁率と長打率。
得点自体の減少は15得点程度と軽微なものでしたからこの2つの数値が得点力の維持に大きく貢献したことに疑いの余地はないかと思えます。
特にこれらの数値を押し上げたのは丸佳浩と鈴木誠也の二人です。
2018年丸佳浩
出塁率.468①
長打率.627①
2018年鈴木誠也
出塁率.438②
長打率.618②
特に丸に至っては出塁率が球団記録であるのみならず歴代でもベスト10に入る驚異的な数字を誇りました。
出塁率と長打率がずば抜けた選手が2人いるだけで圧倒的な得点数を誇る事が出来るというセイバーメトリクス信者が泣いて喜ぶような結果です。
一方で、未だに「抜け目なく得点を狙う機動力野球復活こそがカープ優勝の原動力」という平成も終わろうとしているのに古臭い価値観にしがみつくメディアも未だに散見されてもいます。
実際に、カープはタナキクマルを始めとしてカープは走れる選手が多く野間の人間離れした好走塁を見ればそう考えてしまうのも無理からぬ事ですが。
しかし、その一昔前の価値観である「小狡い野球」を表す数値とも言える盗塁と犠打はどうでしょうか?
カープ2018年盗塁と犠打
盗塁数95①
盗塁企図数140①
盗塁成功率.679④
犠打数109①
犠打企図数137①
犠打成功率79.5%④
いずれも数値の上では1位ではありますが、成功率はリーグ平均以下という結果。
それを踏まえると、「確実に走者を盗塁や犠打で進める事が出来た」というより「とにかく出塁して盗塁や犠打が出来る状況を増やした」事が盗塁数と犠打数の高さに繋がっているという事が分かります。
また、得点圏打率の大幅な低下も鑑みれば今季のカープは「チャンスをしぶとく活かした」わけではなく高い出塁率や長打率によって「得点する機会をとにかく増やし続けた」事が得点力の維持に貢献したと言えるでしょう。
それこそ相手チームの投手がうんざりするぐらいに。
従って、やはり今季もカープは俊足の選手が多いにも関わらず「スモールボール」というケチくさい野球の枠にはまらずに「ビッグボール」的なチームだったという事です。
逆に言えば、このような堅実さよりもとにかく機会の分母を増やして殴り続ける戦い方が今季の半ば自滅のように盗塁死を繰り返した日本シリーズに代表されるポストシーズンの弱さに繋がっているとも思えます。
「丸がいなくなった影響を払拭するのは不可能だが…。」
ここまで高い出塁率と長打率が高い得点力に繋がったと書きましたが、今季シーズン終了後に大変困った事になりました。
上記のように出塁率と長打率で大きく打線を引っ張っていた丸佳浩があろう事か読売に移籍してしまったからです。
丸と誠也を除くと、出塁率と長打率を共に兼ね備えた選手というはちょっと見当たりませんし、選球眼や出塁率というのは正直、努力よりも才能よりのスキルです。
従って丸流出の影響を完全に払拭するのは事実上不可能でしょう。
しかし、それでも野間峻祥や、西川龍馬のように出塁率も長打率も確実にアップは出来ている選手はいます。
また、昨年は1番でありながら驚異的な数字で最高出塁率に輝いた田中広輔のように復活すれば大きな数値を期待出来る選手もいます。
何よりも丸も誠也も故障でチームから離脱した期間が少なくなかったにも関わらずこれだけの数字は残ったのですから…。
出塁率と長打率の高さとは端的に言えば、「打てない時でもどうにか塁に出てチームに貢献する能力」であり「打った時は大胆に次の塁を狙う能力」である訳ですから丸が残したこれらの価値観をしっかりと受け継ぐ形での戦い方を来季も期待したいところです。
参考にしたサイト様
・「日本野球機構」様
・「データで楽しむプロ野球」様
・「Baseball LAB」様
・「野球データノート(2018年)」様