コロナ禍により大幅な延期と日程の減少を強いられた昨年に続いて、今季はオリンピック開催の為に長期の中断を挟むという変則的な日程となった我らが広島カープ。
それだけでなく、コロナウイルスの猛威は収まる事無く、感染爆発に伴う緊急事態宣言の拡大により観客動員は大幅減少したままでのシーズンを余儀なくされましたし、何よりカープは5月に我が国プロスポーツ界で最悪のクラスターが発生してしまうという悲劇にも見舞われました。
シーズン全体での戦いぶりを眺めても4月28日以降5割を一度も上回る事はなく優勝争いはおろか、CS争いからも前半戦の段階で事実上脱落と前半戦は悲惨そのもので半ばチームはこの時点で崩壊したも同然でした。
一方で、9月以降は大幅に勝ち越し最終的には昨年より順位を1つ挙げて3位とは2.0ゲーム差の4位でシーズンを終える事となり持ち直した形にも見えます。
個人タイトルに目を向ければ首位打者に鈴木誠也が、最多勝に九里亜蓮、新人王に栗林良吏が輝いたほか、坂倉将吾や小園海斗、林晃汰と若手がいずれもキャリアハイの成績を収めるなどした事もあって「終わり良ければ総て良し」の精神でマスコミやSNSでは好意的な評価が目立ってはいます。
曰く「外国人選手が全員ハズレでチーム内でクラスターが発生したにも関わらず若手が台頭して最後までCS争いが出来た」と。
しかし、それは本当に妥当な評価なのでしょうか?
最終的には3位と2.0ゲーム差と迫ったとはいえ、その要因は考えられないぐらいに調子を落とした読売が勝手に連敗を重ねてくれたというだけの話であり、一度たりとも自力CSの可能性が復活した訳でもなかった以上は、私には10月の出来事はお世辞にも「CS争いを演じた」などと価値のあるものには思えません。
また、上記の通りチーム内でクラスターが発生した事で直近の試合のスタメン選手ほぼ全員と、先発ローテーションの半分にあたる選手が離脱を余儀なくされ直後の交流戦では歴代最悪レベルの成績で最下位に沈んだのですからその影響は多大だったと言えるでしょうが、一方でそのような事態が発生する1ヶ月前からチームは勝率5割を切っているなど既に凋落傾向でしたし、チーム内でのクラスター発生とそれに伴う主力の離脱はついてはカープより順位が上であるスワローズや読売にも既に起こっていた事実です。
従ってそれをシーズン全体の低迷のエクスキューズにするのは適当とは言い難いですし、何より不運にも陽性反応となった選手に責任を間接的に押し付ける形にもなりかねません。
一方、「今季獲得した外国人が全員ハズレ」であった事は確かに事実でしょう。
コロナ禍による入国制限を見越したかのように年明け早々に来日して新外国人選手としては唯一開幕に間に合わせるなどとにかく素晴らしい人格者であったものの肝心の打撃は全く日本の野球にフィットしなかったケビン・クロンやリリーバーながら防御率が4点台と壊滅的だったカイル・バードがまともに見えてしまう程度に酷い選手たちばかりでした。
特に「日本球界初のリトアニア人選手」として話題になったドビーダス・ネバラスカスに至ってはクイックのあまりの下手くそさに「本当に彼は野球選手なのだろうか?」と彼の来日初マウンド…というか最後のマウンドを幕張で観戦した際には衝撃を受けたほどです。
しかし、それについても上記の通り各球団とも新外国人選手が軒並み入国制限の為にキャンプ時はおろか、シーズン開幕後も来日できず4月後半にほぼぶっつけ本番で投入せざるを得ない状況だったうえにその時期にはカープは上述の通り既に勝率5割を下回っていたのですから本当に「外国人が活躍しなかったから」というだけで今季の低迷を説明できるとも思えないのです。
そうなると、やはり最大の問題となってくるのはここ数年の球団の編成と指揮官含めたベンチの能力と毎度恒例の考えに行きついてしまうのですが…実際はどうでしょうか?
最初に眺めてみたのが投手陣の成績。
先発陣において今季はキャリア初の二桁勝利を挙げた勢いで一気に最多勝を獲得した九里亜蓮に加えて故障の影響に苦しみながらも2年ぶりに二桁勝利を挙げた大瀬良大地の二人が勝ち頭となりました。
また、シーズン終盤に入って安定した投球を見せた床田寛樹や、4勝ながら若干二十歳にしてローテーションを担った玉村昇悟の活躍もありました。
一方で昨季新人王の森下暢仁は防御率こそチーム最高ではありましたが8勝止まりという結果。
更に全体的な防御率を見ますと二桁勝利を収めた投手を2人要しながら先発全体の防御率(3.99)はリーグワースト2位と低調さが目立ちます。
実際、上記の投手たちが勝ち星を稼いだのは軒並みCS争いからの脱落が事実上決定した7月以降でのもので、とにかく前半での出遅れが目立ったようにも見えます。
救援陣では何といっても新人記録である37セーブに加えて防御率0.87、WHIP0.97と超人的な数字を残した栗林良吏の大車輪の活躍が目立ちました。
栗林は近年稀に見るハイレベルな新人王争いを制しただけでなくシーズン途中のオリンピックでの野球競技では日本代表全5試合全てでセーブポイントを挙げる活躍ぶりでカープのみならず日本中の野球ファンから「救国の英雄」にもなりました。
しかし、救援陣全体の数字を見ると防御率3.48と平凡な数字。
それは当然の事で「カープの最終回には栗林がいる。ではその前のイニングでは?」と聞かれて容易に名前を挙げられる投手が出ないぐらいにセットアッパーについては相変わらずの人材不足でした。
一番まともな成績を収めたのが島内颯太郎の防御率3.12と同じく新人である森浦大輔の防御率3.17ぐらいで残りは軒並み防御率3.80台以下の不安定ぶりを露呈。
上記の全体の防御率についてもひたすら栗林一人の成績が押し下げているだけに過ぎません。
のみならず先発、リリーフ含めた全体のチーム防御率もリーグワースト2位と低迷しており、投手出身の監督かつあれだけ即戦力をドラフトで漁りまくったチームとしてはお粗末としか言いようがないものでした。
また、与四球についても昨年に続いてリーグ最下位とさほど改善しているようには見えず、新人が活躍したわりには数字が伸びていないのは既存の中堅以下の選手への指導が上手くいっていない証左かと思えます。
次に打撃・守備含めた野手の成績。
上述の通り鈴木誠也が2年ぶりの首位打者を獲得したと共にベストナイン・ゴールデングラブ賞を受賞した他、菊池涼介が前人未到の9年連続ゴールデングラブ賞獲得の快挙も達成しました。
鈴木誠也は首位打者に加えてシーズン終盤の驚異的な追い上げでキャリアハイかつリーグ2位の38本塁打も達成し、菊池涼介も本塁打16本のキャリアハイを記録しただけでなくオリンピックでも両名とも文字通り国家の名誉を背負って戦ってくれました。
更にいえば二人ともシーズン中にコロナウイルス陽性反応が出た為にチームから一時離脱を余儀なくされていていたのですからこの活躍は驚異的です。
また、菊池に至ってはコロナウイルス発症による高熱で生命の危機すらあったうえにその後の後遺症にも苦しみ、更にはシーズン途中で実は左足指を骨折していたとの事ですからカープファンならずとも驚倒せざるを得ません。
上記、二人の活躍に加えて今季は捕手と一塁手を行ったり来たりしながらも坂倉将吾がキャリアハイかつリーグ2位の打率を残せば、シーズン途中からショートのスタメンに定着した小園海斗もキャリア初の規定打席に到達したほか、やはりシーズン途中で定着した林晃汰が2011年の堂林翔太以来となる高卒3年目での二桁本塁打を達成するなど若手の台頭も目立ちました。
これらの要素が合わさって打線全体ではチーム打率がリーグ1位、得点圏打率がリーグ2位とそれぞれ上位を記録する事になりました。
にも、関わらずチーム全体の得点は4位と僅差のリーグ3位とさほどでもありませんでした。
要因としてチームOPSがリーグ3位と平均的であるだけでなく長打率に至ってはリーグ4位以下であり、リーグ平均で見てもさほど長打が多くなかった傾向が考えられます。
球場や中継で試合を見た印象から見ても上記の若手選手たちでも単打が多く全体的にスケールの大きさを感じられなかったように思えます。
これはクロンやアレハンドロ・メヒアと言った外国人選手が全員活躍しなかった事が大きいでしょうが、それと同時にフライボールヒッターの隆盛が目立つこのご時世にも関わらず個人まりした打撃をベンチが好んでいる傾向があるかもしれません。
圧倒的な長打率で相手を叩き潰していた3連覇時のチームと比べると何とも寂しいものです。
一方、守備を見るとゴールデングラブ賞獲得選手を2名も輩出したにも関わらず、失策数はリーグワースト2位と投手陣の与四球の多さ同様にミスの多さが目立ちます。
経験不足もあって小園、林、坂倉の若手3人が二桁前後の失策を記録しているのが目立ちますが…はっきり言って彼らより遥かに出場試合数が少ないにも関わらず失策数がその半分近くに及ぶ、田中広輔、松山竜平、安部友裕などのベテラン勢の方がはるかに問題でしょう。
また、西川龍馬のようにやる気のないプレーで記録にはならないミスを連発している場面が目立つ選手がいた事からも、守備・走塁を重視していた筈の河田雄介をヘッドコーチに招聘しても、結局は昨年以前からの守備に関しては課題を何一つ克服できてないばかりか悪化しているようにすら思えます。
さすがに球団もこれは問題視したのか廣瀬純と玉木朋孝両コーチが詰腹を切る形で二軍に降格される事になりましたが、そんな事でこの惨状を改善はできるのでしょうか?
以上、駆け足で今年もカープの戦いぶりを振り返ってみましたが、「シーズン途中のクラスター発生」「外国人選手の不振」だけが3年連続Bクラスに2年連続負け越しという低迷の要因ではないと私には思えます。
若手と一部の主軸の活躍が中盤以降は目立ちましたが、一方で中堅以上は全く進歩が見られませんし、投手出身の監督に守備走塁コーチ出身のヘッドコーチであるにも関わらず肝心のチーム防御率に与四球や失策の多さは改善されませんでした。
また、走塁に関しても大きなリードで迂闊な牽制死が目立ったわりに盗塁数は平均的に終わっただけでなく単打の多いこじんまりした打撃に終始する選手が増えただけの事にすら思えます。
それでも首脳陣を評価したい方々には「若手を育てた」という錦の御旗があるのかもしれませんが…それについても上記で挙げた若手のうち坂倉以外は開幕一軍にすら呼ばれず、小園に至っては首脳陣との確執さえも噂されていた事実を忘れてはならないでしょう。
更にいえば林に関してもチーム内でのクラスター発生による選手不足という事態がなければ絶対にスタメンどころか一軍に抜擢される事すらなかったと言い切れます。
そもそも今季は最多勝や首位打者はおろか、二桁勝利投手も打率3割以上の選手すらいなかったチームが優勝したという事実から考えても、これだけ個人成績では優れた選手がいて新人や若手の台頭があってもCSにかすりもしなかったという事実をもっと重く受け止めるべきかと思えます。
外国人選手の不振は確かに大きかったですがそれと同じく若手の台頭が目立ったにも関わらずそれを活かす事が出来なかったのは結局のところ中堅以上の選手を育てきれない首脳陣と、新人と外国人以外に補強する術をもたない球団体質そのものに帰する事になるのではないでしょうか。
そうである以上は、本当に今季の戦いぶりから来期以降に巻き返しが出来る状態にあるとは私には思えないのです。
某ラーメン漫画のセリフを拝借すれば
「若手が育っているチームは良いチームなどというナイーブな考えは捨てろ」
という事です。
広島東洋カープ2021年シーズン主な成績
※()はリーグ内順位
63勝68敗12分(4位)
得点557点(3位)
失点589点(5位)
打率.264(1位)
防御率3.81(5位)
本塁打123(4位)
盗塁68(3位)
犠打85(3位)
長打率.389(4位)
出塁率.329(3位)
OPS.713(3位)
得点圏打率.262(2位)
与四球483(1位)
失策80(2位)
データ引用したサイト様
・- nf3 - Baseball Data House Phase1.0 2021年度版様