コロナ禍により、およそ3シーズンに渡って続いた応援の制限が遂に解除されて鳴り物応援が戻って来た2023年シーズンは阪神タイガースが38年ぶりの日本一を飾ると言う形で幕を閉じました。
これにより12球団では唯一平成以降で日本一の経験が無い「昭和に取り残された球団」となってしまったカープですが、順位は5年ぶりのAクラスかつ最終戦までもつれこんだものの18年ぶりの2位。
この結果はあまりにも低かった下馬評を覆す結果を残す事であり私を含めて多くのファンに驚きをもたらしました。
更に驚きなのは選手個々の成績を見ると突出した選手が少なくタイトル獲得者も球団史上初の最優秀中継ぎ賞に輝いた島内颯太郎とキャリア初のベストナインとなった西川龍馬のみという事。
特に打撃成績に関しては酷く本塁打に至ってはあまりの確実性の低さから今季限りでの退団が決まっているマット・デビットソンの19本塁打を除くと、主要な成績はタイトルを獲得したとはいえ故障がちで辛うじて規定打席をクリアできたに過ぎず、決して高い数字を残したとは言い難い西川が独占という低調さ。
これに加えてチームを率いたのが指導者経験皆無であった新井貴浩監督でしたから、この結果はまさに奇跡としか言いようがありません。
リーグ3連覇から一転して4年連続Bクラスと低迷期に入ったチームがいかにしてこのような奇跡を起こす事が出来たのか?
正直、例年以上にかなり難しい事になりそうですが、改めて考えてみたいと思います。
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2023年カープ チーム成績
74勝65敗4分(2位)
得点493(5位)
失点 508(5位)
打率 .246(4位)
本塁打 96本(4位)
出塁率 .304(5位)
長打率 .357(4位)
盗塁 78(2位)
犠打 96(4位)
先発防御率 3.20(5位)
リリーフ防御率 3.14(3位)
与四球 400(4位)
WHIP 1.24(5位)
失策 82(5位)
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改めて今季のカープの数字を並べ見ましたが、比較的充実していたと思われていた投手成績も含めていずれもリーグ内で3位以上の成績がほとんど皆無でなんとリーグ2位となった盗塁数と3位であったリリーフ防御率のみ。
更にリーグ1位に至ってはどの部門でも0という結果で正直、どう見てもリーグ2位どころかAクラスに終わったチームのそれではなく頭を抱えてしまいました。
今季のチームを引っ張ったのは間違いなく投手陣だったのですが数字を見てみると突出しているものは限定的だったように見えます。
まず先発陣ですがローテションでは5番手以降の投手が最後まで固定しきれなかったばかりかシーズン終了後に手術する事となった大瀬良大地の不振もあり、最終的にまともに機能していたのは床田寛樹、森下暢仁、九里亜蓮のみ。
うち二桁勝利を挙げられたのは床田のみでその床田にしてもプロ入り初の10勝目を8月半ばに挙げて以降はたったの1勝と息切れは隠せませんでした。
また、新たな若手の台頭もなく辛うじて結果らしきものを見せたのは4勝を挙げた森翔平ぐらいですが、その森にしても投球内容は低調そのものでさほど将来性を感じさせるものではありませんでした。
上記の通り大瀬良は手術による影響があるうえに元々衰えを隠し切れない状態という事も考えると来季以降のローテションの構築は大変厳しくなりそうです。
一方で、投手出身の前任監督が何一つ整備できなかったリリーフ陣に関しては近年稀に見る充実ぶりであったと思います。
ルーキーイヤーから2年連続30セーブ以上を記録していた栗林良吏が前半戦は故障と不振に陥りましたが、その穴を矢崎拓也が埋めたうえに上記の通り島内が球団史上初の最優秀中継ぎ投手賞を飾る活躍を見せましたし、ニック・ターリーはちゃっかりチーム4位の7勝を挙げました。
また、これに大道温貴がシーズン後半から活躍を見せるなど新たな戦力の台頭もありました。
まあ、そのリリーフ陣にしても夏場以降は疲労の為か、島内、矢崎がいずれも精彩を欠く場面が増えましたし、そもそも島内の62試合登板は明らかな投げさせ過ぎで来季が心配になります。
2000本安打を達した強打者が監督に就任したにも関わらず開幕2試合連続で完封負けを喫するなど当初から低調で投手陣の足をひっぱり続けたのが打線。
本塁打と盗塁以外の成績でチーム1位だったのはいずれも故障がちで離脱した期間も多く平凡な数字が並ぶ西川という事からも分かる通り、本当に今季は悲惨そのものでした。
昨年途中から加入して今季はシーズンフルでの活躍が期待された秋山翔吾もシーズン中盤以降は完全に低迷し、2年目だったライアン・マクブルームは完全な期待外れでした。
また、チーム最多の本塁打を放ったマット・デビットソンも結局のところは「たまに本塁打を打つかもしれない守備固めの選手」に過ぎずマクブルームと揃って退団となったのは残念ながら当然の結果だと思えます。
何より、坂倉将吾のポジションを今季から捕手に固定したのは完全な失敗でした。
元々、純粋に捕手としての能力は凡庸であるに過ぎない彼のポジションを固定した事で起用の幅が狭まり肝心の打撃でも低迷を招いてしまった事実は重たいと言えるでしょう。
一応、シーズン終盤に小園海斗に末包昇大と伸び悩んでいた中堅どころがある程度の活躍を見せてチームを引っ張ってはくれましたが、それ以外に若手で出て来た選手はやはり皆無で将来性という点でも大変疑問を感じます。
また、打撃以外の野手の働きに関してはどうだったかと考えるとこれまた低調な打撃を補えたと言えるものはありません。
盗塁数については上記の通りリーグ2位の数字で「機動力野球復活」というお得意の代名詞が中国新聞辺りで上がりそうですが、盗塁数1位だったのがほぼ代走選任だった羽月隆太郎だった事からも分かる通り、低すぎる出塁率や長打率にあってはほとんど意味をなしたとは思えません。
また、守備に関しても失策数はリーグワースト2位で開幕3戦目の野間峻祥による「清水建設事件」を代表するようなとんでもない失策もところどころ見られました。
更にここまで10年連続ゴールデングラブ賞という驚異的な記録を残した菊池涼介が遂にその連続受賞記録が止まってしまうという出来事もあり、決して守備力に関しても突出したものはありませんでした。
と、数字に加えて個々のセクションの印象も重ねて見ましたが改めて何故このチームが2位になれたのかが分からなくなってきました。
そうなると、就任1年目で74勝を挙げたうえで2位という球団史上でも最高の成績を収める事となった新井監督の手腕によるものは大きかったという事でしょう…と言いたいのですがこれまた「何が良かったのか?」というと少々困ってしまいます。
上記の通り、長らく再建できていなかったリリーフ陣を立て直したという点は分かりやすい功績ではありますが、それ以外の部分ではチーム全体で残した数字はさほど高くないばかりか若手の起用がそれほど多い訳でもなく、どちらかと言えばベテランを重用する傾向が目立ったように思えます。
また、プロ入り10年で本塁打を3本しか放っていない上本崇司を4番に据えたり、夏場に疲労が目立った島内、矢崎に代わってドリュー・アンダーソンと中崎翔太を起用するなどファンを驚かせる起用を見せたものの、それについても一時しのぎ的なものに過ぎません。
とはいえ、これだけ能力的に劣る選手や低迷している選手が大半のチームを率いて2位という結果をもたらす事が出来たという事は、結局のところ選手のモチベーションを引き出す事が非常に上手かったという事かと思います。
だからこそ、シーズン全体で見ればたいした数字では無かったもののスポット的に活躍する選手がところどころで出て来たという事なのでしょう。
何ともふんわりした話ではあるのですが私としてはそれぐらいしか今季の躍進の要因を考えるしかないのです。
まあ、説明できなから奇跡という事で…。
それにしても、順位のうえでは望外の好成績を残せたものの選手個々を見れば内情はボロボロで、若手の台頭もほとんどなかった事を考えると来季以降は希望よりも不安の方が勝ります。
これに加えて既に打撃成績のほとんどでチーム1位を独占していた西川がFAによりオリックスバファローズへ移籍が決定し選手層はますます先細りましたし、大瀬良や秋山も手術に踏み切り来季以降は不透明とあって暗澹たる思いすらします。
まあ、今から来季の事を心配しても仕方ないので残り少ない今年は改めて新人監督が成し遂げたこの素晴らしい結果を噛みしめた方が良いのかもしれません。
コロナ禍により向こう数年復活はないと考えていたスクワット応援もジェット風船も戻って来て、シーズン中盤以降にはもはや制限など単なる悪い夢でしかなかった事が分かった今季の喜びと共に。